高野ムツヲ先生の一句

高野ムツヲ先生の一句
先日、足立区竹の塚にある一茶ゆ
かりの寺、炎天寺で開かれた句会
に参加してきました。
高野ムツヲ先生が主宰の小熊座とい
う俳句結社の土の会という句座でし
た。
私の句の成績はいまひとつでしたが、
素晴らしい句に出会ってきたのでご
紹介します。

また一つ展翅されたる夏の星 
. 高野ムツヲ

展翅(てんし)は捕まえた昆虫の羽を
広げ、きれいな形の標本にすること
です。
星は、太陽のような恒星や地球のよ
うな惑星ではなく、点に見えても実際
は銀河系のような星団や巨大な星雲
です。
遠くから見れば点にしか見えない星
ですが、多彩な表情を持つ星々や
ガスの集まりです。
少し前に宇宙望遠鏡からの星の写
真を見て、その美しさに心を奪われ
しばらく眺めていました。
そうした美しさや、真理を追求し蓄積
しようとする人間の営みを「展翅」と
言い切ったところに凄みがあります。
新たな美と知見が人類のファイルに
加えられ、いつでも閲覧できるように
なりました。
また展翅は同じ音の天使を思いおこ
させます。
「夏」の星は、今まさに破壊と創造が
同時進行する星の動きと詩情を感じ
させます。
秋の星や冬の星では静謐や清冽は
表現できても、宇宙の創造の現場は
思い起こせません。
そして「また一つ」という措辞で、今
までもあり、これからも続く永遠への
回帰が表現されています。
星に真理を感じていた古代人の営
み、宇宙の謎を知的に解明しようと
する現代の私たち。
今ひとつの星の姿の解明を表現する
ことで、かえって古からの人間の希求
や宇宙の永遠への憧憬という広がり
から無限の時間までがいいとめられ
ています。
清新で簡素な詩情で新しい世界を開
き、俳句の素晴らしさを改めて知らせ
てくれる秀句と思います。
ありがとうございました。

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