- Home
- しゃちょーのブログ, 作る楽しさ耕すひとたち
- 作る楽しさ耕すひとたち 番外1 珈琲の店「もっく」の鈴木一真さん
作る楽しさ耕すひとたち 番外1 珈琲の店「もっく」の鈴木一真さん
- 2020/5/23
- しゃちょーのブログ, 作る楽しさ耕すひとたち
作る楽しさ耕すひとたち 番外1
珈琲の店「もっく」の鈴木一真さん
少年の育った街には不思議な店が
あった。
裏通りの商店街の片隅、紫陽花の
生垣に面したその喫茶店は、いつ
も静かだった。
一面の木戸とガラス窓は内部まで
見渡せるのに、外に開いてはいない。
暗くもなく、明るくもなく、軽くもなく、
重くもなく。
毎日通るたびに眺めてはいても、触
れてみることはなかった。
高校生になった少年はある日意を
決して店に入った。
店内では店主が碁に興じていて、
そのまま半時間が過ぎた。
やっと気がついて、「ああ、いつか入
ってくると思ってたんだよ」と言った。
店主も毎日見かける少年を覚えて
いたのだ。
その時少年は、こんな仕事がしたい
なと思った。
それから10年、大学を卒業し社会人
になった青年に店主は声をかけた。
「今度、店をやめようと思うんだけど
かわりにやってみない?」
気が向けば半径50km以内なら、自
転車に乗って写真を撮りに行く。
心の起伏を表にはださないが、譲れ
ない自分をかかえている。
相手を気遣いながら、どこまでを語る
かを探る真剣な眼差しがある。
そんな青年が店を引き継いで1年た
った。
以前のオーナー、ロアンの岸さんの
ゆったりした時間の流れを受けて、
どれだけのお客さんが残ってくれる
のか心配だった。
味は人により、変わっていく。
岸さんのマイルドでやさしい味から、
メリハリのあるシャープな味になって
いる。
切れ味はいいけれど、まだ深みは少
し足りない。
これが個性によるものなのか、若さの
ためかまだ見えない。
けれど岸さんにない懸命さは感じる。
経験と、時間の蓄積と、感覚の熟成
の訪れが楽しみだ。
しかし、このコロナ禍。
コーヒー豆の販売だけでは経営は
厳しい。
それでも、「この店を引き継いでやっ
てもらってよかった」というお客さんの
言葉に救われる。
晴屋にとっても大切なパートナーとな
ってくれるだろう。
珈琲の店 もっく
東京都東久留米市本町2-2-19
TEL/FAX : 042-420-5598
休み 毎水曜 隔週火曜