旬の音楽「ベイシー・ビッグ・バンド」

旬の音楽「ベイシー・ビッグ・バンド」
いつ聴いても楽しめるジャズを思い
浮かべる時、まず思い出すのが、
ボーカルのエラ・フィッジェラルドと
このカウント―・ベイシーです。
彼が率いるカウント・ベイシー・オー
ケストラは、デューク・エリントン・バン
ドと人気を二分していました。
洗練されたエリントンに比べ、ベイシ
ーはより素朴でホットです。
その音楽は彼の個性そのもので、
黒人として苦労した生い立ちがある
のにその痕跡を音楽にとどめず、
常に前向きで暖かく人を受け入れま
す。
多くのミュージシャンにも慕われ、彼
のオーケストラには常にきら星のよう
なスターが集まります。
トロンボーンのカーティス・フラーや
サックスのズート・シムズなども来日
公演でやってきてその演奏を間近
でみることができました。
ソロイストの天才たちが集まって楽し
げに音楽する姿は、見ているだけで
こちらの顔もほころびます。
数多のベイシーの録音の中で一番
聴く機会が多いのがこの「ベイシー・
ビッグ・バンド」です。
この時期のドラマーはプッチ・マイルス
という若い人で、音楽に彩りと勢いを
与えています。
そして忘れられないのが、フレディー・
グリーンというお年寄りのギター奏者
です。
オーケストラの片隅で淡々とコードを
弾いているだけなのですが、この人
がいないとベイシーバンドの味わい
と奥行きが生まれません。
フォルテでは当然音は埋もれてしま
いますが、音の空間の合間に差し込
まれる絶妙な刻みは、ひたすら豊か
に膨張するバンドの音を引き締め、
人生の、音楽の陰影を表現します。
そしてもちろん御大ベイシーのピアノ
も忘れられません。
豊麗な音の合間にポロンポロンと素
朴なフレーズを奏でるだけなのです
が、何とも形容しがたい味わいがあり
ます。
子どもが弾いているようでありながら
人生の達人にしかできない芸。
苦労に苦労を重ね、鍛え切った上に
達成される境地、「天真」という言葉
がこれほど似合う人もいないでしょう。
しかし現実のベイシーは、ベッドでは
決して睡眠をとらずソファーで寝てい
たそうです。
ベッドで寝るとそのまま死んでしまうと
いう恐怖心から抜け出せなかったと
いいます。
そうした負の世界を感じさせず、音楽
は心地よく、時に大胆に跳ね、また次
の瞬間には静謐な叙情にひたります。
音の渦の中心にあって、演奏する悦
び、聴く楽しみをつむぎながら、ベイ
シーは何を感じていたのでしょうか。
心が暖まり、生きる力を感じたい時に
おすすめの音楽です。

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