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「花を抱いて会いにいく」

泉山由紀 川柳句集
「花を抱いて会いにいく」
お客さんの泉山さんが川柳句集を
だされました。
いつも静かに話される泉山さんです
が、芯の強さ、ぶれない感性が感じ
られます。
句集にもそうした静かで強靭で柔ら
かな感性が溢れています。
ざわざわをさばさばにしたたった今
さりげないわざとらしさを踏みつぶす
「作者の普段は決して表出されること
のない内なる激しさが感じられます。
あざとさへの強い嫌悪です。」
夕焼けに浮かぶ金魚になったまま
「一転して淡く透き通った抒情性が
少女のまま大人になった女性の眼を
感じさせます。」
大股で後ろめたさを踏んでいく
橋の名に残る流れの消えた川
ああ神様こんなところに咲かないで
「神とも思える花を人目に触れない片
隅で見つけた悦びと驚き、そしてそれ
を感じない人が多い嘆き。」
もう風は詠まないで発つ風見鶏
「心から」と書いてしまった下心
野の花を「夏枯草」と知る終戦日
ただ便り待つ日の無風 鯉のぼり
赦すのに使い果たした「恩返し」
首すくめ「しょうがないよ」のおとしまえ
「シニカルに現実を受け止めるのは
内なる無垢を守るためでしょうか。
冷徹でなくうつむいた姿勢です。」
秋風の出口も見せず葛の花
目出度さにちょっと抗う椀の蓋
出ていかぬ蜂を残して家を出る
分かち合うもの生れくる夜の秋
「この句集の中で一番惹かれた句で
す。泉山さんのもっとも深い感覚が
さりげなく表現されているように感じ
ます。」
走り出で会いたかったを思い出す
父さんは見えない 父の望遠鏡
あの時の風です しかと抱きしめる
「語られることのなかった願望。それ
を句にしたためられるのは作者にと
って何よりの悦びであったかもしれま
せん。」
そういえば踏まれなかった麦でした
方舟はヒトを乗せずに発ちました
山茶花が気がついている今の嘘
「作者の知的側面、頭の回転の良さ
細かなことに思いいたす繊細さが感
じられます。」
暫くを僕に懐いて冬の蠅
後ろ手を組んでやさしい傍観者
吾が投げる石と思わず運び終え
この刹那しかと見て逝けシャボン玉
貸出しの期限が切れる民主主義
「すでに幻想としか言えない民主主
義。未だに多くの人が幻想に縋って
います。知的で厳しい視線です。」
なにかしら負けた気がする トクサ抜く
天井に「何」と「なんで」が浮く未明
発酵中 歯朶生う沼の月の赤
煮詰めればアクも旨味だ 俺を煮る
渋柿であれば甘ぁくなれたのに
「渋柿でさえ甘くなれるのに私には
無理だったという懺悔とも晦渋とも
後悔とも達観ともとれる句です。
決して他人にはみせない表情がか
いま見れます。」
願われてばかり 神様やけっぱち
あれこれをまずは覆わん春の雪
嵌め殺しの窓「それでも」を映し出す
いつまでもいってしまった音が居る
秋に泉山さんが晴屋に来られた時、
「もう来ることはできない」と言われま
した。
病をえていることは知っていましたの
で、「配達はいつでもできますからど
うぞ」とお答えしましたが覚悟があっ
てのお話だったのでしょう。
その時「句集をだそうと思っているの」
と言われました。
普段は用事以外のことはほとんど話
されないのですが珍しいことと思い
ながら「是非見せて下さい」と言いま
した。
それがお会いした最後でした。
長いお付き合いでしたがほとんどが
買物や商品に関することだけで親密
な関係ではありませんでした。
私が書いている通信はお読みになっ
ていて俳句を嗜んでいることを知っ
おられました。
その上でのお話と思いましたがその
後間もなくお亡くなりになったのを知り
句集が完成したかどうかとても気にな
っていました。
川柳をやっている他のお客さんから
泉山さんの句集の話が出て鑑賞会
を開かれるということでした。
私も句集をぜひ見せていただきたく
無理にお願いして一晩お借りしまし
た。
とても良い佳句が多く選ぶのに苦労
しました。
一句一句に念がこめられています。
さりげなく内なる世界が拓かれ読む
人を静かな世界に誘います。
人を動かすのは強く激しいものよりも
静かで透明なものなのだと改めて感
じ、良い時間を過ごせました。
私を含めてお仲間たちの心にいつ
までも残るものとなるでしょう。
私も昨秋に死を強く意識することが
ありました。
燃え滓の崩るる音や秋の声 晴
消ゆるとは風となること冬泉
句集の出版をうれしく有難く思うとと
もにご冥福をお祈りしています。
ありがとうございました。
松橋晴