酢の効用

酢の効用
甘さ、塩気、酸味、苦みと次第に複
雑に、高度になっていく味覚の3番
目にあるのが、酸味です。
酢は太古から最古の調味料として
使われていました。
酒を作り、それをわざわざ置いて酢
酸発酵させて時間と手間をかけて
作る貴重品でした。
それだけに高価で誰でもが使える
ものではありませんでした。
味に複雑な旨味を与え、疲労を回
復させ、食べ物の日持ちをよくして
くれます。
主成分のクエン酸の他、さまざまな
有機酸や有効成分が入っています。
近代になり工業化されて比較的簡単
に作られるようになりましたが、今度
はクエン酸だけの単純で刺激的な
風味になり、かえって敬遠されるこ
とも多くなっています。
今回、酢のことをアピールしてみよう
と思ったのは、コロナ禍の中で出来
合いのおせちを利用される方が増え
ている気がしたためです。
酢には不思議な力があって、味を
中和させる働きがあります。
例えば塩を入れすぎたり、砂糖を
多く入れて甘くなってしまったり、反
対に辛さが強すぎた料理に、少量酢
を加えると中和されて、バランスのと
れた味になります。
また逆に、旨味が不足したり、何か
の調味料が少なく味のバランスが
悪い時に酢を加えると味が整い、
美味しく食べることができます。
また枉駕では、チャーハンの一番
最期に少量の酢を入れていました。
そうすると味にフレッシュ感がでて、
さわやかですっきりとした風味にな
るのです。
酢は味が足りない時にも、濃すぎる
時にも働く、とても大事な調味料で
す。
分かるか、分からないか微妙な量
の加減が大事ですし、質ももちろん
吟味しなければなりません。
工業的に作った単純で刺激的な酢
では、酸味が目立って味に深みは
えられません。
お正月に合わせてこの文章を書こう
と思い立ったのは、ひとつには出来
合いの料理の風味を整えるという意
味があります。
冷凍以外のおせち料理は真空パッ
クで届けられます。
日持ちと安全性を最優先していて、
しかも添加物は使わないために、パ
ック詰めしてから加熱して滅菌します。
缶詰なども同じなのですが、この工程
で驚くほど日持ちのする製品を作る
ことができます。
しかしいいことだけではなく、残念な
こともあります。
味がベタっと重くなってしまうのです。
いろいろな風味が混じり合って一体
となって、味に切れ味がなく、角のな
い平板な風味になります。
ちなみに缶詰天国のヨーロッパでは
むしろこうした重たい味が上等なもの
として歓迎され、缶詰の専門店、缶詰
だけを出す料理店、パブなどもある
ようです。
日本では缶詰の賞味期限は2年ほど
と決められているようですが、ヨーロッ
パでは古いものほど上等とされてい
るそうです。
そのため棚に並んでいる缶詰を後ろ
から持っていく人は皆無といいます。
新鮮で豊富な食材のある日本では
あまり重たい味が好まれることはなく
文化の違いを感じます。
そうした感覚を持つ私たちが食べる
お正月料理ですから、すっきりとした
フレッシュ感が求められます。
その時に活躍するのが酢です。
上等の酢を少し加えて合えることで
味が驚くほどフレッシュに、爽やかに
変身します。
また酢には殺菌作用もあるため、痛
みにくくなって、日持ちもよくなります。
これは煮物だけではありません。
刺身や肉、魚料理にも使える技術
です。
蒲鉾や味付け数の子が一味も二味
も美味しくなります。
質の良いお酢ならどれでもそれなり
の効果がありますが、酢の個性で
風味は当然違いがあります。
晴屋で一番売れている酢は、有機
酢の老梅です。
リンゴ酢のような、日本酒でいえば
大吟醸のような爽やかですっきりとし
た風味です。
決して出しゃばらない味なので和食
にぴったりです。
一番無難なのはこれでしょう。
もう少し旨味と複雑さを求めるのだっ
たら、八芳酢がおすすめです。
リンゴ酢をベースにして、上等な利尻
昆布とかつおの出しが入り、レモンで
さらに風味付けしています。
これは関西の伝統の味の再現です。
関東の明確な味と違い、関西特に京
都では表に強いだしの風味がでるの
を嫌います。
明確には分からないけれど、食べて
みると違うのが、上品で上等なのです。
関西で使われる利尻昆布はまさにそ
れにぴったりの味で、存在は主張し
ませんが、他とは違う旨味があるの
です。
そうした関西の美意識を体現してい
るのが八芳酢で、酢の物、寿司酢、
ドレッシング、ピクルス、魚の下ごしら
え等なににでも使える万能の酢です。
近藤醸造の米酢は明確に酸っぱい
お酢好きの人のためのお酢です。
アジア系の料理には不可欠ですし、
加熱に使うにはこれくらいしっかり酸
がないと味がへたります。
臨醐山黒酢は豊富な旨味と爽やかな
風味を両立した稀有な酢です。
バルサミコ酢に近く、すっきりとフルー
ティーな風味で旨味も豊富です。
トマトとの相性は抜群で、どうしても旨
味が足りないという時に重宝します。
晴屋が創業した40年前には自然食
品業界の酢と言えば、飯尾醸造の
富士酢でした。
米の風味にこだわるメーカーで、米の
香りと言うよりは糠の風味を強く感じ
ます。
そのため雑味を感じることが多く、い
つの間にか売れなくなってしまいま
した。
関西に多くある酢の醸造所の中での
個性の主張といえるのでしょうが、晴
屋では過去の製品となってしまいま
した。
味を調和させ、素材の旨味を引き出
し、身体の疲れを癒し、感覚をリフレ
ッシュさせ、雑菌の繁殖を防いで日
持ちをよくしてくれるスーパー調味料
であるお酢。
お正月は酢と新たに出会い、楽しむ
良い機会と思います。

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