塚本万亀子句集「鸚哥の唄」

塚本万亀子句集「鸚哥の唄」
今年から入会した俳句結社「小熊座」
の先輩で同人である塚本万亀子さん
が句集「鸚哥(いんこ)の唄」を上梓さ
れ、拝見しました。
季語を大事にされている方のようで、
題材に即した季語が選ばれていま
す。
 園涼し石に生国ありにけり
 家族みな揃ひし朝の花菜漬
 蠟梅の一灯万の忌が近し
 草市の言葉少なに商へり
 残されしことも忘れて日向ぼこ
文学青年だった息子さんが不慮の
事故で亡くなられ、残された本に囲
まれながら、句作に打ち込まれたよ
うです。
 月光に蛇口氷つてしまいけり
 花菜風背中合せの駅の椅子
 窓を開け沖に合掌夏の星
 時の日のどこでも乗せる村のバス
 秋燕や移民の墓は海を向く
 遠霞見えざるものの見えてきし
転勤による転居をくり返し、今は仙台
に住まわれているようです。
震災にも遭われことさらその体験を大
袈裟には語られませんが、行間から
感じられるものがあります。
 梅雨夕焼全速力の三輪車
 野分晴箒大きく使ふ音
 九十九折山桜また山ざくら
 境内に移動図書館薄紅葉
 海の日や見えざる海に手を合はす
題材と季語が近く、言葉にストレスが
かからないため穏やかな詠みぶりで
すが、地に足のついた確かな感性を
感じ、心地よい時間を過ごせました。
ありがとうございました。
「小熊座」主宰 高野ムツオ先生選十句
 どんどの火闇の上にも闇があり
 常のごと春の星生む地震の空
 咲くほどに花の無言の語り満つ
 猫の子をつひに抱きあぐ下校の子
 たちまちに山影迫る秋袷
 露寒や鏡のやうな峡の空
 遺されしことも忘れて日向ぼこ
 鳥籠の空のままなり旱星
 はやばやと星のまたたく白露かな
 風花の睫毛に触れて暮れにけり
(朔出版 本体2200円)

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